深海生物図鑑

AUVはどんな深海調査に向くのか

AUVは「広く、近く、繰り返し見る」調査に強い

深海調査では、「海底のどこに何があるのか」を知るだけでも簡単ではない。調査船から音波を送れば広い範囲を測れるが、海底から数千メートル離れた海面付近から見るのと、海底のすぐ上を航行しながら見るのとでは、得られる情報の細かさが違う。そこで力を発揮するのがAUV(Autonomous Underwater Vehicle、自律型無人潜水機)である。

AUVは、母船とケーブルでつながれず、あらかじめ設定された航路や深度などに基づいて自律航行しながら観測する無人探査機だ。NOAAはAUVの代表的な用途として、ソナーによる海底地形の詳細なマッピングや、カメラと照明を使った撮影を挙げている。JAMSTECの「うらしま」も、設定したシナリオに従って航行し、海底地形などのデータを取得するAUVとして運用されている。

AUVの強みを一言で表せば、**人を乗せず、ケーブルにも縛られず、海底近くを一定の計画に沿って移動できること**にある。特に、広い海域を規則的に走査し、同じ種類のデータを連続して集める調査と相性がよい。

海底地形を細かく描く

AUVが最も得意とする仕事の一つが海底マッピングである。

調査船にもマルチビーム音響測深機などを搭載できるが、AUVは海底に近い高度まで潜って観測できる。そのため、同じ海底を海面付近から測る場合より細かな地形を捉えやすい。MBARIは、海底マッピング用AUVによって、船体搭載型や曳航型のソナーより高解像度の海底地形図を作れるとしている。NOAAも、AUVは海底のすぐ上から広範囲のデータを取得できるため、海面上のプラットフォームより高解像度の調査が可能だとしている。

この特徴は、海山の斜面、断層、熱水活動に関係する地形、海底の崩壊跡などを探すときに重要になる。大まかな地図では単なる起伏に見えていた場所が、より細かな測量によって複数の尾根や窪地、急斜面として分かれて見えることがある。

ただし、地形図から分かるのは基本的に「形」である。ある窪地がいつ形成されたのか、どの現象が原因だったのかまで、地形だけで必ず決められるわけではない。AUVの測量は仮説を絞り込む強力な材料になるが、地質試料の採取、地震・地球物理観測、年代測定など別の証拠が必要になる場合も多い。

深海生物の「分布」を追う調査にも向く

AUVにはカメラ、照明、CTDなどの環境センサーを搭載できる。機体によって装備は異なるが、海底近くを一定の高度や航路で進みながら画像と環境データを連続取得できる点は、生物調査でも大きな利点になる。海上保安庁が紹介するAUVにも、音響測深機、サイドスキャンソナー、CTDセンサー、デジタルカメラなどが搭載されている。

例えば、ある海底斜面を格子状に走りながら撮影すれば、サンゴ類や海綿、底生動物が多い場所と少ない場所を比較できる。さらに水温、塩分などの環境データと組み合わせれば、「この生物はどのような環境に多いのか」という分布パターンを検討できる。

ここで重要なのは、AUVが見つけた相関関係と、生物の生息理由を区別することだ。ある生物が特定の水温帯に多く写っていたとしても、それだけで水温が分布を決めているとは限らない。餌、底質、流れ、酸素量、競争相手など、別の要因が関わっている可能性がある。

また、カメラ映像に写らなかった生物が、その場所に存在しないとも限らない。小型生物、堆積物の中に潜る生物、活動する時間帯が限られる生物、撮影範囲の外にいた生物は見落とされる。AUVは広い範囲を効率よく観察できるが、「海底生態系のすべて」を自動的に記録できる装置ではない。

同じ場所を繰り返し測る価値

AUVのもう一つの強みは、計画した航路に沿って繰り返し観測しやすいことにある。海底の変化を知るには、一度だけの潜航より、時間をおいて同じ区域を再び測る方が有力な場合がある。

海底地形の変化、堆積物の移動、熱水・冷湧水域周辺の状態、生物群集の広がりなどは、継続観測によって初めて見えてくることがある。AUVを用いた海底からのメタン放出域のマッピングやモニタリングも行われており、WHOIはAUV「Sentry」を海底からのメタン湧出を調べる調査に利用している。

ただし、「同じ航路を走った」ことと「完全に同じ条件で比較できた」ことは同じではない。潮流、濁り、機体の高度、センサー設定、位置推定のずれなどが変われば、得られるデータにも違いが生じる。長期変化を議論するには、観測条件の違いを考慮し、本当に海底側が変化したのかを慎重に見分ける必要がある。

AUVが苦手な調査もある

AUVは万能な深海ロボットではない。最大の特徴である「自律性」は、そのまま制約にもなる。

水中では電波による高速通信が難しく、潜航中の通信には音響通信などが使われる。JAMSTECは、水中では電波がほとんど利用できないため、通信や測位に水中音響を用いると説明している。NOAAも、AUVでは一部の情報を通信できる場合があるものの、観測で得た生データの本格的な回収はミッション終了後になる場合があるとしている。

そのため、研究者が映像を見ながら「右に珍しい生物がいるので近づこう」「この岩を採取しよう」と即座に判断する仕事では、ケーブルを通じて遠隔操縦できるROVの方が適している場合がある。AUVでも障害物回避や状況に応じた航路変更など自律機能の高度化は進んでいるが、どこまで判断できるかは機体とミッション設計によって異なる。

物をつかむ、掘る、試料を確実に回収する、といった作業も一般にはAUVよりROVや有人潜水船の得意分野である。逆に、事前に決めた範囲を長距離にわたって規則的に測る仕事では、ケーブルのないAUVが有利になる。つまりAUVとROVは競合するだけの存在ではなく、**AUVで広く探し、ROVで狙った場所を詳しく見る**という組み合わせが有効になる。

「自律」といっても、完全に自由に探検しているわけではない

AUVという名前から、自分で研究テーマを考え、未知の海底を自由に探し回るロボットを想像するかもしれない。しかし現在のAUV調査では、人間が目的、海域、航路、深度、搭載センサーなどを設計し、その計画を機体が自律的に実行する形が基本である。JAMSTECの「うらしま」も、緯度・経度・深度などを含むシナリオを事前設定し、それに沿って潜航する。

一方で、将来のAUVがより高度に「その場で判断する」方向へ進む可能性はある。異常な地形や化学信号を検出したときに重点観測へ切り替える、複数機が役割を分担する、海底設備と連携して長期間観測するといった技術が研究されている。ただし、研究開発段階の技術と、一般的な深海調査で日常的に使える能力は分けて考える必要がある。JAMSTECも、海底に設置した設備や複数のAUV、音響通信などを組み合わせた新しい無人観測システムを開発対象としている。

AUVが開くのは「発見の前段階」でもある

深海探査というと、未知の生物を目の前で発見する瞬間が注目されやすい。しかし、その発見に至る前には「どこを詳しく調べるべきか」を決める作業が必要になる。

AUVは、広い海底を比較的細かな解像度で測り、地形、画像、物理・化学データを積み重ねることで、その候補地を絞り込む役割を担える。深海6,000メートルまで潜航可能なWHOIの「Sentry」のような研究用AUVが運用され、日本でもJAMSTECの「うらしま8000」が2025年に水深8,000メートルでの航行試験に成功している。

それでも、海底の詳細地図ができたからといって、その場所の生態系や地質史がすべて分かるわけではない。地形だけでは原因を確定できない現象があり、画像だけでは見つけられない生物がいる。さらに、深海では長期間にわたる連続観測そのものが難しく、まだ十分なデータが得られていない海域も多い。

AUVが示すのは、未知を消し去る最終回答ではなく、未知をより細かく切り分けるための観測結果である。

「何があるか」を広く探し、「どこが重要そうか」を見つけ、次のROV潜航や採泥、掘削、長期観測につなげる。深海調査におけるAUVの価値は、こうした連続した探査の中で最もよく見えてくる。